犬と生きる人々

ドッグトレーナー 木原真理子さん

2018/03/12


自分のワンちゃんに必要なしつけを、どう教えていけばよいのか。どのトレーナーを選べばよいのか、どの情報が正しいのか…。飼い主なら、一度は悩んだことがあるはずです。

木原真理子(きはら・まりこ)さんは、従来の日本のトレーナーによくみられる “個人の感覚”を重視した指導ではなく、欧米で普及されている、犬の行動を基にしつけを強化していく方法を取り入れています。

これまで日本に浸透していたトレーニングとは何が違うのか、木原さん自身のことや現在の取り組みを取材してきました。

ワンちゃんのパワーと “はぐくむ”面白さ

ドッグトレーナー木原真理子

現在、木原さんは大阪のドッグトレーニング施設に勤務していますが、もともとはアメリカで働いていたそうです。結婚を機に家族で日本へ戻り、英会話教室を運営するなど、ペット産業とはかけ離れた生活をしていました。

ある時、犬を飼いたいとお子さんにせがまれてボーダーコリーを飼い始めたそうですが、自宅で英会話教室をしていたため、生徒への安全を考慮してトレーニングを開始します。
最初は自身が呼んでも来ないことも多かった愛犬が、トレーニングを通して反応する回数が増えるなど、その変化に驚いたといいます。
また、一つのことを教えるのに、何が良くて何が悪いかルールを明確にし、褒める時と叱る時を大事にする点などが、子育てと似ていると興味を持つようになりました。

「人間の子どもたちは、ひとり一人違う捉え方をしますよね。ワンちゃんも同じで、一頭ずつ違う捉え方をします。飼い主やトレーナーが想像力を最大限に使って、何が理由でこの行動につながっているのを分析していく過程も、子育てと同じだと感じました。」

その後、飼い主としてだけではなく、ワンちゃんとの暮らしをより豊かなものにしたいと関心が高まり、木原さんはセラピー犬のボランティア活動に参加します。そこでは、普段は静かな患者さんが笑ったり、夜勤明けの看護師さんがわざわざワンちゃんに会いに来るなど、精神的な救いになっているケースを見たといいます。
「介護や医療の現場も人手不足で厳しい側面もあるけど、ワンちゃんがいるとみんなの癒やしになることを目の当たりにしました。」

ワンちゃんの与える効果やその必要性を実感していたものの、まだ木原さんの中でこうした活動は趣味の延長でした。しかしそんな時、トレーニング施設設立の話が舞い込みます。

“正しい”知識と共に 指導者への一歩を踏み出す

当初は、トレーニング施設の立ち上げにサポート役として協力していた木原さん。指導する側になるなど想像もしていませんでした。
しかし、いろんな施設やトレーナーの様子を見学し、ショックを受けることがありました。
トレーナーが犬や飼い主とうまくコミュニケーションできてないかったり、明らかに犬の嫌がる無理な方法を強要している姿を目にしました。トレーニング施設と呼ばれる環境で、想像以上に犬の気持ちが大事にされていない場面が多く見られたそうです。

そこには、日本の訓練士と呼ばれる人々が、ノウハウを感覚的に捉えている点が影響しているのではないかと述べます。
「うまく情報発信できないトレーナーが多く、そこに理論が伴っていないように感じました。「これがこうなって、ああなってな」「犬がこうしたらこうするねん」といった感じだったそうです。昔ながらの職人気質なやり方で、あくまでもその人だけの感覚に過ぎない。何に基づいてそうなるのかがわからないから、飼い主には理解しにくく、それを見ている若手のトレーナーも戸惑ってしまうのではないでしょうか。」
犬と飼い主が一緒に取り組める効果的なトレーニング方法を見つけたい。木原さんはトレーニング施設の代表者と共に考え始めます。

そこで注目したのが、欧米式のキャプチャリングやシェイピングといったトレーニング方法でした。これは犬が自発的に起こした行動について報酬を与えて、その行動を強化していくもので、日本ではまだまだ浸透していません。
また、犬の心に寄り添った指導方法を広めていこうと、海外の指導者たちの情報を集めることにも時間を割くようになります。そこには日本のトレーナー優位の指導方法ではなく、犬の本能や心理を大事にした方法が共有されていました。

木原さんも実際に、アジリティーの指導者であるアメリカのスーザン・サロ(Susan Salo)氏の講義を受け、その違いを実感します。事例を紹介します。犬の目だけの写真を見て、「今、この子は何を思っている?」と聞かれました。異なる5頭の目の写真を見て、「この子は楽しそう、この子は怖がっている」と答えましたが、あとで全身写真を見せられると、自分の答えが犬の気持ちを理解していないものだったと気づかされます。
講師に、「この犬は、飼い主の指示が遅れたから「うわ、どうしよう」と迷っているのです。目だけを見て、この子の気持ちがわかるかしら?一生懸命飼い主を見ている犬の気持ちがわかりますか?」と問いかけられ、その真剣さが心に刺さったそうです。「自分が犬に出す指示がいかに大切か、学びました。」と振り返る木原さん。

犬と飼い主にとって、いかにトレーナーの果たす役割が大きいかを実感したといいます。その後、自身の経験を踏まえ、トレーナーやコーディネーターとしての活動を始めることになります。

うまく情報を取り入れ、独自のノウハウに

木原さんが企画したセミナーで、最も人気の高かったものは、2017年の春にヴィベケ・リーセ氏(デンマークの動物行動学者)を招いた講座でした。犬の行動分析やボディランゲージ、ドッグスポーツへのモチベーションアップの方法など、ヴィベケ・リーセ氏が導いた理論と実践を学べる場を提供し、高い評価を得ました。

参加者からの反響は予想以上に高く、「犬のシグナルをちゃんと理解したいと思うようになった。」といった声が寄せられています。木原さんは、今後もこうした海外の最先端の情報を発信することで、自分ならではのノウハウへつなげ、トレーニング方法を強化していきたいと考えています。

“感性が磨かれる”トレーナーの仕事

この仕事の魅力を尋ねると、 “感性が磨かれること”と木原さん。犬たちは感性の塊で、それぞれに個性を持ち、それが日々の刺激になっているのだそう。
「人間はその日の気分で浮き沈みがあるけど、ワンちゃんは常に一定です。私が落ち込んでいても同じように尻尾をふって嬉しそうな顔をしてくれるし、犬といると感性が磨かれるんです。」

また、トレーニング中のコミュニケーションで、手ごたえを感じる瞬間が好きと語ります。
「だんだんトレーニングを重ねていくなかで、ぴたっとくる時があります。そこからコミュニケーションがスムーズにできてくる。その以心伝心の経験は、普通の仕事じゃ得られない。この仕事ならではだと思っています。」

今後の目標は、アメリカで最先端といわれている「“行動学”を取得すること」と、笑顔で答えてくれました。
「夫婦喧嘩の時も、犬が仲裁に入ったりしますよね。人と人との間の架け橋になり、一心に愛情を注いでくれるワンちゃんの気持ちに報いるためにも、しっかりとした知識を身につけて、トレーニングの一助にしていきたいです。」

木原さんの取り組みを通して、人間とワンちゃんとの関係が改善されることを願わずにはいられません。犬の気持ちを理解したいと思う方は、ぜひ一度、自身のトレーニング方法を相談してみてはいかがでしょうか。

WanUnity(ワンユニティ)

木原真理子さんが勤務するトレーニング施設をご紹介します。

〒553-0001
大阪市福島区海老江8-16
最寄り駅:阪神淀川駅(徒歩2分)
最寄インター:阪神高速神戸3号線 海老江インター
駐車場:有り
TEL 06-6346-3117
Web http://wanunity.com/